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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)5672号 判決

原告

葛迫幸雄

ほか一名

被告

大阪播交株式会社

主文

一、被告は原告葛迫幸雄に対し金二、二六二、二三二円及び内金二一一、五二六円に対する昭和四二年一一月四日から、内金一、八〇〇、七〇六円に対する同四三年四月四日から、内金二五〇、〇〇〇円に対する昭和四四年二月一日から右各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

一、原告葛迫幸雄のその余の請求、及び原告葛迫トシ子の請求を棄却する。

一、訴訟費用はこれを五分し、その二を被告の、その余を原告らの負担とする。

一、この判決の第一項は仮りに執行することができる。

一、但し、被告において原告葛迫幸雄に対し金二、〇〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実及び理由

第一原告の申立

被告は原告幸雄に対し金六、一八三、〇九五円及び内金一、七五一、六八三円に対する昭和四二年一一月四日以降、内金三、六〇一、四一二円に対する同四三年四月四日以降、原告トシ子に対し金二〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年一一月四日以降、右各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員(民法所定の遅延損害金)をそれぞれ支払え。

との判決ならびに仮執行の宣言。

第二争いのない事実

一、本件事故発生

とき 昭和四一年一二月一七日午前七時三〇分ごろ

ところ 大阪市港区市岡浜通六丁目六番地路上

事故車 乗用自動車タクシー(泉五あ〇〇〇五号)

運転者 訴外永友義啓

受傷者 原告幸雄

態様 原告幸雄の運転する原動機付自転車(大阪港〇六二〇〇号)が幅員約一四メートルの本件道路を西から東に向け進行中、対向して来た事故車と道路中央附近で衝突し、原告幸雄が負傷した。

二、責任原因

被告は当時訴外永友を雇用し、同訴外人に被告の業務のため事故車を運転させ、自己のため運行の用に供していた。

三、損害の填補

原告幸雄は本件事故による後記損害のうち、被告より入院費等六〇三、六八〇円、玉出社会保険事務所より休業補償内金として一七二、八〇〇円、後遺症保険金五〇〇、〇〇〇円の各支払を受けた。

第三争点

(原告らの主張)

一、訴外永友の事故車運転上の過失後記のとおりの過失がある。

二、傷害

原告幸雄の受けた傷害は、右大腿骨解放骨折、右膝関節打撲である。

三、損害

(一) 原告幸雄

(1) 入院費 四八〇、九五〇円

昭和四二年二月二〇日までの分。

(2) 再入院費 二一、六六〇円

(3) 入院雑費 四二、八三〇円

(4) 付添費 九四、九八〇円

(5) 交通費 七、七一〇円

昭和四一年一二月一七日から同四二年四月末日まで。

(6) 栄養費 三五、二五〇円

前同。

(7) 逸失利益

職業 富士圧延工業株式会社圧延工

月収 四九、九四八円(事故前三ケ月平均)

(イ) 休業期間 昭和四一年一二月一七日から同四三年四月三日まで(一五ケ月一七日間)。

右逸失利益額 七七七、四二三円

(ロ) 復職 昭和四三年四月四日

収入減 月一九、九四八円(後遺症のため圧延工としてではなく、手伝職となつたため日給一、二〇〇円、月間三〇、〇〇〇円の給料しか得られなくなつたことによる)。

就労可能年数 二三年(現在四〇才)

右逸失利益額 三、六〇一、四一二円(ホフマン式計算により年五分の中間利息を控除して算定した額)

(8) 慰藉料 一、五〇〇、〇〇〇円

主たる算定事情。

入院期間 昭和四一年一二月一七日から同四二年四月二九日まで、及び同四三年二月一四日から同年三月一三日まで、計約五ケ月半。

通院期間 昭和四二年四月三〇日から同四三年二月一三日まで、及び同年三月一四日から同年四月二四日まで。

後遺症 右下肢は、一センチメートル短縮、大腿において三・五センチメートル、下腿において〇・五センチメートルの筋委縮、大腿外側に二・五センチメートル×二センチメートル、膝関節に四センチメートルの創痕あり、膝関節は運動範囲三五度(健足は一五〇度)で著しく障害がある。従来の圧延工としての稼働は不能。

(9) 物損

(イ) 原付自転車修理費 二四、四一〇円

(ロ) ズボン・パツチ・パンツ三、九五〇円

破損による代品購入費

(10) 弁護士費用 八六八、〇〇〇円

着手金三八、〇〇〇円、報酬八三〇、〇〇〇円。

(二) 原告トシ子

慰藉料 二〇〇、〇〇〇円

原告幸雄の前記受傷により妻として精神的打撃を受けた。

四、被告の免責主張等について

事故車運転者訴外永友は、原告車の方向指示器を認め、同車がそのまま右折してしまうものと軽信し右にハンドルを切つたもので、前方不注視、ブレーキ・ハンドル操作不適当の過失があつたことは明らかである。又乾操したアスフアルト舗装で事故車のスリップ痕が一六・五メートルあつたことからすると、同車は制限時速四〇キロメートルであつたのに、時速五〇ないし五五キロメートル出ていたと認められ、最高速度違反の過失も犯していたことになる。更に事故車には当時ブレーキの故障があつた。これに対し、原告幸雄は、進路右(南)側に甚兵衛渡場があり、右折してこれに向かおうとしていたのであるが、その三〇メートル手前からブレーキをかけて減速し右折の方向示指をしつつセンターラインに寄つていつたが、前方に事故車の接近を認め、直進車の進路を妨げないよう右折を中止してハンドルを左に切つたのであるから、同原告には何らの過失もないといわねばならない。仮に原告幸雄に過失があるとしても、それは相殺に値しない程度のものである。

(被告の主張)

一、免責の主張

(一) 被告は事故車の運行には注意を怠らず、事業の監督にも相当の注意をしていた。

(二) 本件事故は原告幸雄の一方的過失にもとづくものであり、訴外永友は事故車運転上無過失であつた。すなわち、本件事故現場はなだらかな坂の頂上より十数メートル西へ下つた地点であるが、訴外永友は、徐行しながら坂の頂上附近に来たとき、原告車を認めたので、警笛を鳴らし直進車のあることの注意を喚起しつつ進行したところ、原告幸雄は事故車が接近してから突然右折を始めたので、訴外永友はこれを避けようとして急制動をかけると共にハンドルを右に切つたたところ、原告幸雄は運転技術未熟で(運転免許取得は本件事故発生の二、三日前である)突嗟のハンドル操作が悪く、右折を止めてハンドルを左に戻し事故車に衝突して来たものである。

(三) 事故車には構造上の欠陥も機能の障害も何ら存しなかつた。

(四) 以上の次第であるから、被告には自賠法三条の責任も、民法七一五条の責任もない。

二、過失相殺

仮りに被告に責任があるとしても原告幸雄にも前記のような過失があるから斟酌さるべきである。

三、原告トシ子の慰藉料について

原告幸雄の受傷が、死亡に匹適する程度とは言えないから、原告トシ子の慰藉料請求は失当である。

第四証拠 〔略〕

第五争点に対する判断

一、被告の責任

原告幸雄は本件道路を東進して事故発生地やや東寄りの道路南側にある甚兵衛渡場に右折すべく、その約三〇メートル手前で方向指示機により右折合図をしながら減速して道路中央寄りに走行し、前方三〇メートルに事故車を発見したが、その際自車は道路中央部より右寄り部分に越えて進行する状態になつていたものの、直進車優先であると考えて左転把したところ、本件事故発生に至つた。一方、訴外永友は道路中央寄りに事故車を運転して本件現場附近に差しかかり、前方約四七メートルの対向車道中央寄りを右折合図をしながら対向して来る原告車を認めたが、進行を続けるうち、原告幸雄が右後方を振りかえつたまま道路中心を越えて自車進路前方に進出進行を続けて来るのを前方約二三メートルに気付き、急拠警音器を吹鳴すると共に急制動の措置を講じたものの及ばず、事故車は左車輪で約一六・五メートルのスリツプ痕を残し右にカーブを描きながら、前記のように事故車に気付いて左転把した原告車と衝突するに至つた。なお事故発生地附近の道路南側には材木屋があるのみ位であり、又前記甚兵衛渡場への進入口も明らかに右折道路があると判るような状況ではなく、訴外永友は原告幸雄の前記右折合図に気付いたものの、その意図は察知し得なかつた。(〔証拠略〕)

右の事実からすると、訴外永友としては、当初原告車を発見したとき、その右折合図の意図を察知しなかつた上、原告車は減速していたのであるから(この点は、乙一号証により認められる両車の進行距離からみても、原告車の速度は事故車の約三分の一であつたと推認される。)、原告車が直ちに右折態勢に入るかも知れないことも予測しうべきであり、もしそのような場合には、事故車との距離は未だ約四七メートルもあるのであるから、その距離的関係から、原告車としてはそのまま右折しても事故車に対して直進車の進路妨害にならず先に右折しうると考えて右折を続けることが充分予想されるところで、訴外永友としては、原告車発見と共に右のような場合の右折車の進行を妨害しないよう直ちに減速徐行すべきであつたと考えられる。しかるに、前認定の事故車のスリツプ痕よりすれば、事故車が急制動措置を講じた際の速度は時速四〇キロメートル以上であつたものと推認されるのであつて、もし訴外永友が原告車発見の当初において、前記のような注意を尽して減速徐行していたならば、その後原告車がそのまま道路中心線を越えて事故車進路前方へ進出進行を続けて来るのに気付き急制動等の応急の措置を執つた場合にもそれが原告車手前約二三メートルであつたこと及びその後の原告車事故車の進行径路など、前認定のような事故態様に照らし、充分事故発生を避けることができたものと認められる。換言するならば、本件事故発生は右のような訴外永友の減速徐行を怠つた事故車運転上の過失にもとづくものと言うべきであるから、してみれば、被告は、自賠法三条但書の免責事由の立証がないことに帰し、同条の運行供用者としての責任を免れない他、修理費については、民法七一五条の責任を負うといわねばならない。

二、原告幸雄の受けた傷害

原告ら主張のとおり認められる。(〔証拠略〕)

三、損害

(一)  原告幸雄

(1) 入院費 四八〇、九五〇円(〔証拠略〕)

(2) 再入院費 六、六四〇円(〔証拠略〕)

(3) 入院雑費(含栄養費) 四八、九〇〇円

後記のとおり前後二回に亘り計一六三日入院したので、その間、雑費・栄養費として一日当り三〇〇円程度の支出を要したものと認める。(〔証拠略〕)

(4) 付添費 九四、九八〇円(〔証拠略〕)

(5) 交通費 七、七一〇円(〔証拠略〕)

(6) 逸失利益

事故前の職業、収入、休業期間、復職の日、復職後の減収額、就労可能年数、原告主張のとおり、従つてその休業期間中の逸失利益額及び収入減少による将来の逸失利益額は、いづれも原告主張の額を下らない。

休業期間中 七七七、四二三円

将来減収分 三、六〇一、四一二円(ホフマン式計算により年五分の中間利息を控除して算定)(〔証拠略〕)

(7) 慰藉料 一、五〇〇、〇〇〇円

入通院期間は原告主張のとおり認められる(但し通院実治療日数は三〇日)。又原告主張のような後遺症があり、従前の圧延工としては稼働できなくなつて雑役夫として働らいているが、通常の座位、蹲据が困難である。(甲二ないし四号証、原告幸雄本人尋問の結果)。その他本件証拠上認められる諸般の事情を考慮すると原告幸雄に対する慰藉料は右額が相当である。

(8) 物損

(イ) 原付自転車修理費 二四、四一〇円(〔証拠略〕)

(ロ) ズボン・バツチ・パンツ講入費

認められない。

(9) 弁護士費用 五三五、〇〇〇円

着手金三五、〇〇〇円、報酬五〇〇、〇〇〇円を認める。(〔証拠略〕)

(二)  原告トシ子の慰藉料

被告主張のとおりであつて認められない。

四、過失相殺

前認定の事故態様に徴すると、本件事故発生については、原告幸雄にも前方注視不充分、右折方法不適当の原告車運転上の過失があると認められるので、当事者双方の車種も考慮して右過失を斟酌すると、原告の前記損害額より五割を過失相殺するのが相当である。

第六結論

被告は原告幸雄に対し、前記損害額計七、〇七七、四二五円から前記過失相殺額(二分の一)を差引いた三、五三八、七一二円より更に前記損害の填補合計一、二七六、四八〇円を控除した残額二、二六二、二三二円及び、内金二一一、五二六円(前記損害額中、減収による将来分逸失利益と弁護士報酬とを除く合計額に前記過失相殺を加へ、それより、前記損害填補額合計を差引いた額)に対する昭和四二年一一月四日(訴状送達の日の翌日)から、内金一、八〇〇、七〇六円(減収による将来分逸失利益に過失相殺を加えた額)に対する昭和四三年四月四日(右将来分逸失利益算出基準日)から、内金二五〇、〇〇〇円(弁護士報酬に過失相殺を加えた額)に対する昭和四四年二月一日(本判決言渡の日の翌日)から、右各支払いずみに至るまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払わねばならない。

訴訟費用の負担につき民訴法八九条九二条九三条、仮執行及び同免脱の宣言につき同法一九六条を適用する。

(裁判官 西岡宜兄)

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